社会と個人 どう向きあうの

林住期 どのように暮らすのか。日々、自問自答する。

(260) 「愛されなくても別に」(武田綾乃作 講談社文庫) 空気とか社会とかが 謝れって言ったって、それを無視していい

 

 

 

 

映画「リズと青い鳥」つながりで、読んだ。武田綾乃作品。

 

 

 作品紹介・あらすじ

時間も金も、家族も友人も贅沢品だ。

「響け! ユーフォニアム」シリーズ著者が、息詰まる「現代」に風穴を開ける会心作!


遊ぶ時間? そんなのない。遊ぶ金? そんなの、もっとない。学費のため、家に月八万を入れるため、日夜バイトに明け暮れる大学生・宮田陽彩。浪費家の母を抱え、友達もおらず、ただひたすら精神をすり減らす――そんな宮田の日常は、傍若無人な同級生・江永雅と出会ったことで一変する!

愛情は、すべてを帳消しにできる魔法なんかじゃない――。
息詰まる「現代」に風穴を開ける、「響け! ユーフォニアム」シリーズ著者の会心作!

 



文庫版の表紙、引いてしまう。電車の中で広げるのは恥ずかしい、私は。
けれど、面白かった。内容は今風(!?)。

3人は同じ大学の同級生。三者三様、毒親
「家族、やめる」宮田陽彩(ひいろ)と江永雅の選択。清々しい。波長の合う陽彩と江永の関係、少し希望と光。
それぞれの育ちが壮絶だ。現代の実情。
江永の冷めた視点・科白、格好いい。
木村水宝石(あくあ) は毒婦との決別ができるのであろうか。新興宗教・宇宙様、旧統一教会のことを思い起こしてくれる。この作品は2020年の作品だが。


三つの見出し。
 01.愛、或いは裏切り。
  春

 02.救い、或いはまやかし
  夏

 03.祈り、或いはエゴ
  秋

 

 

作品から印象的なところを抜き書き。



01.愛、或いは裏切り。
   春 

" 2019年4月25日現在。 東京都の最低賃金は985円だ。 全国平均は 874円で。 最低金額は鹿児島県の761円。 "  との書き出し。


P36
(陽彩のこと) 小学二年生の頃。 私は母が恋人とセックスしているところを目撃したことがある。 あの時は性行為の存在を知らなかったから。 男の下で喘ぐ母を見て恐怖した。 乱れた髪、母の体を這い回る浅黒い手。 嗅ぎ慣れた母親の香水の匂いが、鼻の裏側にこびりつくような性の匂いと混じり合って吐き気がした。 

P57
(江永の科白) まあ、とにかく。 (身体売る)いろいろやったよ。 中学の時に。 お母さんにやれって言われてさ。 ずっとそうやって生活費を稼いできた。 最初はまじで嫌で嫌で仕方なかったけど。 もう……なんというか。 慣れだよね。 今はSNSあるしさ、上客捕まえられたら宮田のバイト代くらい稼げちゃうよ。

P58
(江永の科白) …… あたし、親を捨てたから。  
連絡先も全部変えて、 住所も教えず、一人暮らしを始めたの。 高校の時さ、私が大学に行くって言ったら、あの人に死ぬほど反対されて。 大学に行くならやばい写真をネットに晒すぞよって脅されてさぁ。 まさかリベンジポルノを母親にされるなんてって感じじゃん。 それでぷちーんきて家から出た。 もしかしたら私の裸写真がネットで公開されてんのかもね、笑える。 

P102
(陽彩のこと) なぜ世の中に家族という言葉が蔓延ってるのか? 本当は私も分かっている。 幻想だからこそ、それを守ろうとしている人々は強いのだ。 家族であるというただそれだけの理由で、他人を育成する。 子育ては手間が掛かり、金も掛かる。 それでもな尚、子どもという一個人を育て上げるのだから、親という生き物は尊ばれるのだ。  
私は血が繋がっているだけの他人を親とは呼ばない。呼びたくない。  
母は私に愛情をくれた。そしてそれ以上の裏切りも寄越した。彼女の愛を私は疑ってはいない。 だが、愛だけ与えられて、それが何だというのだろう。 私は便利な家政婦か?それとも愛らしいペットか? 部屋を掃除してくれるロボット掃除機にだって愛着がわく、母の私の愛はそれと同じか?  


02.救い、或いはまやかし
 夏 

P124
(江永の科白) 私は、リスクを背負って大の大人が選んだ仕事なら、それは尊重されるべきだと考えている。問題なのは、望んでいないのに、そういう仕事をやらされている人たちがこの世界に存在してるってこと。特に子供ね。まじ胸糞悪い。自分が何をさせられているのか分かってないんだもん。 

(宇宙様の活動拠点の民家にて 木村水宝石に案内されて) 

P193 
 (壁の額縁の宇宙様の言葉)

『自分が生きる世界を愛せ』  
『 晴れ続ける空はなく、止まない雨もない』
『醜い自分から逃げるな』
『助けてくれる人間に感謝せよ』  
『良い人生とはよく眠り、よく食べよく愛すことだ』 

P201  
(江永の科白) 私は他人に愛されなくても、幸せに生きることを許されたい。いいじゃん。愛されなくても別に。他人から愛されなければいけないなんて、そんなのは呪いみたいなもんだよ。宇宙様、あんたは間違ってる? 

P118  
(陽彩の科白) 私さぁ、木村(水宝石)が自分が不幸だって言ってる事にムカついてた。お前なんかより私のほうが苦しんだのにって。  
(江永の科白) それが不幸中毒ってやつですよ、お客さん。 不幸度で勝ちたいなんて思ってたら、 最終的に自分から不幸になりたがる奴になっちゃうよ。 


03.祈り、或いはエゴ
 秋 

P303
(江永の科白) 許すかどうかの選択は宮田がしていいんだよ。 空気とか社会とかが宮田に謝れって言ったって、宮田はそれを無視していい。 怒り続けても良いし、 悲しみ続けてもいい 何を選ぶかわ? 宮田の持っている権利だから。

P308 
” 世界に響き渡る2人分の足音が、私が孤独でないことを密かに教えてくれていた。” 作品は終了 

 

 

momodaihumiaki.hatenablog.com

 

 

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