社会と個人 どう向きあうの

林住期 どのように暮らすのか。日々、自問自答する。

(170) 「福田村事件」鑑賞

 

 

 

 

 

 

 

九条のシネヌーヴォで、12時45分から観賞。
小さな会場であったが、満席であった。パイプ椅子を出して鑑賞される方もおられた。多かったのは年配の方、でも若い人の姿もちらほら。

 

映画.COMから

「A」「A2」「i 新聞記者ドキュメント」など、数々の社会派ドキュメンタリー作品を手がけてきた森達也が自身初の劇映画作品として、関東大震災直後の混乱の中で実際に起こった虐殺事件・福田村事件を題材にメガホンを取ったドラマ。

1923年、澤田智一は教師をしていた日本統治下の京城(現・ソウル)を離れ、妻の静子とともに故郷の千葉県福田村に帰ってくる。澤田は日本軍が朝鮮で犯した虐殺事件の目撃者であったが、静子にもその事実を隠していた。その年の9月1日、関東地方を大地震が襲う。多くの人びとが大混乱となり、流言飛語が飛び交う9月6日、香川から関東へやってきた沼部新助率いる行商団15名は次の地に向かうために利根川の渡し場に向かう。沼部と渡し守の小さな口論に端を発した行き違いにより、興奮した村民の集団心理に火がつき、後に歴史に葬られる大虐殺が起こってしまう。

澤田夫妻役を井浦新田中麗奈が演じるほか、永山瑛太東出昌大柄本明らが顔をそろえる。

2023年製作/137分/PG12/日本
配給:太秦

 

www.youtube.com

 

普通の人が虐殺に走る、心が震えた。
同調圧力差別意識、流言飛語、今もその素地は変わっていないと思う。

 

シベリア出兵で戦死した遺骨を抱く未亡人とのやり取り、列車内のシーンから始まる。それを迎える村の人々。


シベリア出兵
ロシア革命に対し、日本やアメリカ・イギリスなどは シベリア出兵 を行った。 ロシア東部のシベリア地域に軍隊を派遣し、革命をおさえようとした。
1918年2月から1922年10月まで、日本のシベリア出兵が続いた。 この出兵で日本は3500名の死傷者を出し、10億円に上る戦費を消費した。
また、シベリア出兵を見越したコメの買い占めがあり、米騒動の原因ともなった。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

澤田智一(井浦新が演じる) が、妻の静子(田中麗奈 ) 隠していることは何なのか。4年前(1919年)のこと。提岩里教会事件のこと、私は知らなかった。


提岩里教会事件
提岩里教会事件(ていがんりきょうかいじけん)は、1919年4月15日、日本統治下の朝鮮京畿道水原郡郷南面提岩里(現在の華城市郷南邑提岩里)で、三・一独立運動の最中に生じた事件。暴動を指揮した29名の朝鮮人が殺害された。

ウィキペディアから

事件の詳細
堤岩里3・1運動殉国記念館が保管する証言資料を総合して事件の過程を再構成すると、次のようになる(ただし、時間と名前など細部において誤りがある可能性がある)。

1.有田中尉は、佐坂と朝鮮人巡査補趙熙彰に命じて、堤岩里住民のうち成人男性(15歳以上)を教会に集めた。
2.予め名簿を持っていたらしく、来ない人は探して呼んで来た。
3.有田中尉が、集まった人々に「キリスト教の教え」について問うたところ、安(安鍾厚と推定)という信者代表が答えた。
4.有田中尉は教会の外に出るやいなや射撃命令を下し、これに応じて教会堂を包囲していた軍人たちが窓から中を射撃した。
5.射撃が終わった後、教会にわらと石油をまいて火をつけた。
風が強く吹き、火は教会下手の家に燃え移り、上手の家は軍人たちが回って火を放った。
6.教会に火がつくと、洪(洪淳晋と推定)と「郷南面に通っていた人(安相鎔と推定)」及び「ノギョンテ」が脱出しようとしたが、洪は逃亡中に射殺され、「郷南面に通っていた人」は、家の中に避難したが発覚し殺害され、ノギョンテは山に逃げて生き残った。
7.脱出したところを射殺されたらしき死体が、二つ三つ教会の外にあった。
8.村で出火したのを見て駆けつけた姜泰成の妻(19歳)が、軍人に殺害された。
9.洪氏(洪元植)の妻も軍人の銃を受けて死んだ。
10.軍人たちは古洲里村に行き、天道教信者六人を銃殺した。



村民の興奮、行商人たちの不安の高まり、事件の発生へと物語は進む。
亀戸事件の平澤計七も登場する。平澤計七を含む10名の社会主義者、4人の自警団員、朝鮮人が虐殺された。習志野騎兵第一三連隊の兵士によって亀戸署構内または荒川放水路で殺害された。
行商人たちが労働争議に遭遇する場面も。野田醤油(現キッコーマン株式会社)の労働争議なのであろう(1919年から1927年) 。
前年(1922年3月)に結成された全国水平社の精神が行商人に伝わっている姿も丁寧に描かれる。

 

 

www.fukudamura1923.jp

 

 

関東大震災から五日が過ぎた1923年9月6日、千葉県東葛飾郡福田村の利根川沿いで、多くの人が殺された。多くの人が殺した。でもこの事件を知る人はほとんどいない。皆が目をそむけてきた。見て見ないふりをしてきた。惨劇が起きてから100年が過ぎたけれど、事実を知る人はもうほとんどいない。

450万年前に樹上から地上に降りてきた僕たちの祖先(ラミダス猿人)は、直立二足歩行を始めると同時に単独生活だったライフスタイルを集団生活へと変えた。つまり群れだ。なぜなら地上には天敵である大型肉食獣が多い。一人だと襲われたらひとたまりもない。でも集団なら天敵も簡単には襲ってこないし、迎撃できる可能性も高くなる。

こうしてヒトは群れる生きものになった。つまり社会性。だからこそこの地球でここまで繫栄した。でも群れには副作用がある。イワシやハトが典型だが、多くの個体がひとつの生きもののように動く。だってみんながてんでばらばらに動いていたら、群れは意味を失う。特に不安や恐怖を感じたとき、群れは同質であることを求めながら、異質なものを見つけて攻撃し排除しようとする。

この場合の異質は、極論すれば何でもよい。髪や肌の色。国籍。民族。信仰。そして言葉。多数派は少数派を標的とする。こうして虐殺や戦争が起きる。悪意などないままに。善人が善人を殺す。人類の歴史はこの過ちの繰り返しだ。だからこそ知らなくてはならない。凝視しなくてはならない。

だから撮る。僕は映画監督だ。それ以上でも以下でもない。ドキュメンタリーにはドキュメンタリーの強さがある。そしてドラマにはドラマの強さがある。区分けする意味も必要もない。映画を撮る。面白くて、鋭くて、豊かで、何よりも深い映画だ。

荒井晴彦佐伯俊道、片嶋一貴、小林三四郎井上淳一、心強い映画人たちが結集した。関東大震災が起きた1923年から100年となる2023年9月1日に公開します。ご期待ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


歴史的事実を今に生かす努力は一人一人にかかっているのだと思う。
まずは、事実を知ることから。

 

 

 


「面白くて、鋭くて、豊かで、何よりも深い映画」(森達也監督)だと思った。
重いけれど、深い映画だと思う。
監督はじめ、スタッフ、キャスト、この映画に携わった人たちに心から拍手を送りたい。
こうした作品がいくつもいくつも作られていく平和な社会づくりの一翼になりたいと思う。
評価 90点。

ラスト、澤田夫妻が乗った渡し船はどこに行くのだろうか。

 

 

 

にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村

 

映画ランキング