能登半島地震の発生から1カ月に合わせ、朝日新聞社は石川県を除く46都道府県知事に対し、大規模地震への備えなどについてアンケートを実施したところによると、「7割超の知事が、幹線道路の寸断などで物資輸送や救助活動が妨げられた今回の地震と同様の事態が起こりえる」と回答。近隣住民で助け合う「共助」の仕組みが困難になっているとの認識は約9割に上った。
大阪府も 高齢化や人口減少で自治会や町内会などコミュニティーの担い手が少なくなるなか、災害時の住民による共助の仕組みが困難になっていると回答している。
道路寸断・救助遅れ…能登の事態「起こりえる」7割 知事アンケート [能登半島地震]:朝日新聞デジタル
被災者への支援を続け、そして、自らの足元も見つめなおそう。
まずは、原発の危険性について、熟慮が必要だ。そして、災害への準備と隣近所との意思疎通。避難計画は大丈夫か、点検が要。
PWR(加圧水型炉) とBWR(沸騰水型炉) ABWRは改良型沸騰水型軽水炉
※ GX実行会議 中部電力株式会社代表取締役会長提出の資料から
【最新】日本と世界の発電割合比較:再エネ拡大の方法を解説 - accel. から
ふたつの図
※ 2022年の電力割合
東京新聞の記事ふたつ。
能登半島で動いた断層は150キロ、想定は96キロなのに 北陸電力が繰り返してきた「過小評価」の歴史:東京新聞 TOKYO Web
能登半島で動いた断層は150キロ、想定は96キロなのに 北陸電力が繰り返してきた「過小評価」の歴史
2024年1月30日 12時00分
能登半島地震では半島北側の沿岸部の断層が150キロ程度にわたって動いたとみられている。では、半島の西側に志賀原発を立地させた北陸電力は、あの地域で断層活動をどう想定してきたか。原発に致命傷を与えかねないのが断層活動に伴う揺れなどだ。見立てが甘いと安全面が揺らぐ。そんな懸念から立地時以来の経過をたどってみると、不信を募らせる経過が浮かんできた。(山田祐一郎、木原育子)
◆「異常なし」の後からトラブルが出てくる
1987年にまとめられた志賀原発の設置許可申請書にある断層位置図。「Fu1」「Fu2」は活動性を考慮する断層という位置付けではなかった
「早々に『異常なし』ということが強調されて、後からトラブルが出てきている。不信感ばかりが募る」
能登半島地震で震度5強の揺れに襲われた志賀原発(石川県志賀町)。不安を口にするのは内灘町の元町議、水口裕子さん(75)。同町は原発から約40キロの距離にある。
北電の株主として長年、株主総会で脱原発などを求めて質問に立ってきた。地震発生以降、社民党県連が志賀原発の視察を求めているのに、実現していない点に触れ「なぜ公開できないのか」といぶかしむ。
「異常なし」とされた志賀原発だが、変圧器が損傷して油漏れが発生。外部電源の受電用系統が一部使えなくなった。放射線量を測定するモニタリングポストは116台中、最大で18台で測定値が確認できない状態になった。
北陸電力志賀原発=石川県志賀町で(本社ヘリ「わかづる」から)
その志賀原発を動かそうとする北電には、不信を増幅させる別の問題もある。原発に影響を及ぼしうる断層活動の想定だ。
政府の事故調査委員会は今回の震源の断層について「半島の北西部から北東沖まで長さ150キロ程度と考えられる」と評価をまとめた。かたや北電は昨年5月にあった原子力規制委員会の会合で、半島北側にある四つの断層の計96キロ区間を連動する断層帯として評価し、マグニチュード(M)8.1の地震を見立てた。
◆「断層が連動するのでは」促され検討
過去にさかのぼると、さらなる疑念も浮かぶ。
北電は東日本大震災後の2012年3月、経済産業省原子力安全・保安院(当時)の「地震・津波に関する意見聴取会」第3回会合で、四つの断層をつなぐと約95キロになると説明した一方、「一括して連動するというということは考えがたい」と見解を示していた。
ただ委員から「多分連動するような断層の配置」「こういう部分、全部つなげていっぺんに割れたというケースが多い」と指摘が相次ぐと、北電は「そういった方向で検討する」とし、3日後の第4回会合で「約95キロの連動を考慮するとM8.1相当」と伝えた。
「こちら特報部」が改めて尋ねると、北電は「第3回会合で4断層が連動した場合でも安全性に問題がないことを説明していた。次の会合ではより安全側の評価として4断層の連動を評価した」と釈明した。
◆立地時「活動性を考慮する断層」に含めず
気になるのは、志賀原発立地時の想定もだ。1987年に北電が政府に提出した志賀原発の設置許可申請書の縮小版が国会図書館にあるので、閲覧してみた。
「敷地周辺海域の主要断層位置図」を見ると、半島の北側には、東西に延びる二つの断層を記していた。「Fu1」「Fu2」という名称で、全長は約63キロと約59キロ。ただし「活動性を考慮する断層」という位置付けではなかった。
今回動いた断層との関係はうかがいしれないが、二つの断層を将来動きうる断層に含めなかったのはなぜか。北電に質問すると「産業技術総合研究所や海上保安庁などにより音波探査が行われ、それらの結果から、活断層ではないと確認した」と回答があった。
◆断層を的確に想定しなければ「すべてが崩れる」
原発を動かそうとする電力会社が断層活動を甘く想定した場合、何が問題になるのか。
NPO法人「原子力資料情報室」の上沢(かみさわ)千尋氏は「動きうる断層を的確に想定し、検討しなければ、全てが崩れてくる」と述べる。
原発の敷地内や周辺の環境を調べて断層の有無などを把握した上、将来にわたってどれだけの長さで活動しうるのか、その規模で断層が動くと揺れがどうなるか、施設の強度は十分か、新たな手だてが必要か—などと想定を重ね、原発の安全性を確保するのが電力会社の役目とされる。
◆補給手段が絶たれれば安全性そのものに直結
しかし、断層活動の長さの想定が甘いと、揺れの見積もりや手だてなども甘くなりかねない。
地盤が隆起し、海底があらわになった鹿磯漁港=石川県輪島市で
想定を超えて断層が動いた場合、それに伴う揺れや地盤のずれで原子炉や建屋に影響を及ぼさないか心配な一方、上沢氏は「周辺施設の構造物のほか、道路などのへ影響が広範囲に及ぶ可能性もある。補給手段が断たれるなどすれば、原発の安全性そのものに直結する。想定が甘ければ全て狂ってくる」と続ける。
断層活動を巡って甘い想定が浮かぶ北電には、不信が募る。過去を振り返れば、なおさらそう感じる。原発を稼働させるだけの信頼性があるか、問われるところだが、能登半島地震後の姿勢は微妙なところだ。
北電は自社サイトで、半島の北側ではM8.1クラスの地震を想定していたと強調している一方、今回の地震がM7.6だったことから「想定内の規模」と伝えている。
◆今回は動いた面積が小さかったということ
北電が想定した断層活動は約96キロ。能登半島地震で動いたとされる断層の長さは150キロ程度。それでも地震の規模が北電の想定より小さかったのはなぜか。
富来漁港周辺の海岸(手前)と志賀原発
新潟大の立石雅昭名誉教授(地質学)は「地震の規模は活断層の長さだけでは決まらない。長さに加え、実際に動く断層の面積やずれた量が影響する。今回は動いた面積が小さかったということだ」と解説し、「地震の規模は大きく想定したといっても、安全サイドに立てば胸を張るようなことではなく、当然の話だ」とくぎを刺す。
◆断層は想定を超えて活動しうる
その上で、想定を超える長さで断層が動いたとされる事態を問題視する。「地震波として志賀原発にどのように伝わってきたか、地下構造の解明が必要だ」
北陸電力の本店=富山市で
北陸電力の本店=富山市で
立石氏の懸念は当然とも言える。志賀原発では、観測された揺れの加速度の一部が、想定をわずかに上回った。原子炉建屋などの重要施設が影響を受けやすい周期ではないとされるが、見過ごすことはできない。
大阪大の平川秀幸教授(科学技術社会論)は「地震規模が想定未満ゆえ大丈夫、と言うのは疑問が残る。どういう影響が原発に及んだのか、地震学や地震工学の面からも再検討しなければならない」と訴える。
重く捉えるのがやはり、「断層は想定を超えて活動しうる」という点だ。「自然現象は人知を超える。改めてそういったことに立ち返って考えていくべきだ」
◆規制委の判断含め再検証が必要
今回は北電が昨年段階で想定したより1.5倍長く断層が動いたとされる。この教訓は、各地にある原発の直下や周辺の断層を議論する際、どう扱うべきか。
前出の上沢氏が求めているのが、断層活動を巡る従来の想定の再検証だ。「検証が終わっていない段階で、原発を稼働させようとするのであれば大問題だ」と声を大にする。
志賀原発に関しては、原子力規制委が昨年3月、2号機の適合性審査で「敷地内に活断層はない」とする北電の主張を「妥当」と判断している。上沢氏は「規制委のこの判断も改め、しっかりと再検証する必要がある」と強調する。
◆デスクメモ
断層活動の想定が甘くなるのはなぜか。耐震対策などの費用増を避け、でないなら、それはそれで重い事態だ。その時々の最善を尽くして自然環境を調べても、将来動きうる断層の長さがつかめないなら、人知の限界と自然の脅威が浮かぶ。そんな中で原発の安全性は確保できるのか。(榊)
「今の石川県で原発災害が起きたら避難できない」 それでも災害指針を見直さない、楽観論の背景にあるもの:東京新聞 TOKYO Web
「今の石川県で原発災害が起きたら避難できない」 それでも災害指針を見直さない、楽観論の背景にあるもの
2024年2月6日 12時00分
能登半島地震では、原発防災の限界が鮮明になった。道路や建物の損壊が激しく、避難や屋内退避をしようにも無理があると突きつけられた。現実逃避するのが、原子力規制委員会。住民防護の基本方針を記す「原子力災害対策指針」を巡り、山中伸介委員長は「見直しを考えず」と述べた。これでは汚染が拡散した際、住民らが被ばくしかねない。思考停止を正す術(すべ)を探った。(西田直晃、安藤恭子)
◆「原発を動かすべきではない」要請書
「地震と原発事故が複合すれば、お手上げの状態になるのは明らか。どうして指針を見直さないのか」
「北陸電力と共に脱原発をすすめる株主の会」の中垣たか子さん(73)=金沢市=は憤りを隠さない。今回の惨状を考慮すれば原子力災害対策指針が定める屋内退避や避難は困難とし、1月末に原子力規制委員会宛てに「各地の原発を動かすべきではない」と求める要請書を提出した。
中垣さんが問題視する指針は、原子力規制委が原子力災害対策特別措置法に基づいて策定する。事故の際に住民を防護するため、各自治体がつくる防災計画のよりどころになる。
◆陸海空の避難路は途絶、屋内避難も難しく
地震発生から1カ月近く経っても残る道路のひび割れ=1月29日、石川県穴水町で
指針によれば、原発に異変が生じた際には原則、原発5キロ圏の住民は避難となる一方、その外側は屋内退避でしのぎ、空間線量が一定水準に達したら避難に移行すると定める。
ただ今回の被災地では道路網が寸断され、地盤の隆起や地割れで海路や空路も断たれた。建物の被害も著しく、石川県によると、5日時点の判明分で5万2000棟余りの住宅が損壊した。
◆「指針そのものの話ではない」と微修正どまり
避難や屋内退避をしようにも無理がある現実。中垣さんは「能登半島地震を自然の警告と受け止める契機にするべきだ」と訴える。
ところが、原子力規制委の山中伸介委員長は1月31日の会見で「原子力災害対策指針そのものを見直さないといけないとは考えていない」と語り、微修正にとどめる考えを表明した。
一体、なぜなのか。
山中氏は1月17日の会見で「能登半島地震の状況を踏まえると、現在の原災指針で対応が不十分であったかというと、それはそうではない」と持論を展開。同31日の会見では「自然災害に対する防災については見直さなければいけないところはあろうかと思いますが、原災指針そのものの話ではない」と述べた。
◆見直せば原発を動かせなくなるからでは
「自然災害による被害は守備範囲外」と言わんばかりだが、指針が今のままだと何が起こりうるのか。
ジャーナリストの政野淳子氏は「原発事故が発生しても現地は対応しようがない。道路が寸断されれば逃げられないし、家屋が倒壊すればそのまま被ばくしてしまう」と危機感を募らせる。それでも国が指針を見直さない点について「本気で見直せば、各自治体は実現可能な防災計画をつくれず、原発を動かせなくなるからでは」とみる。
不可解さは他にもある。
山中委員長は微修正のポイントに「屋内退避の開始時期・期間」を挙げたが、この見直しを検討するのは、東北電力女川原発(宮城県)の周辺自治体から要望があったためだという。だが、山中氏は会見で「他の自治体など関係者の意見を聞くことはあるか」と質問されても「まずは規制委の中で議論して進め方を考える」との回答。自治体との意見交換を二の次にする姿勢が浮き彫りになった。
◆現実的な対策を求める首長の声も
政野氏は「規制委は運用の改善レベルで体裁を繕おうとしている。被災地の現状があまりにも無視され、これほど、ばかばかしい話はない」と語気を強めた。
物議を醸す原子力災害対策指針。その軸となる住民避難や屋内退避を巡り、自治体からは今回の地震後、現実に即した見直しが必要とする声が出始めている。
北陸電力志賀原発が立地する石川県志賀町の稲岡健太郎町長は本紙の取材に、県などによる避難訓練に言及。「海にも空にも逃げられない」と述べた。
東京電力柏崎刈羽原発を抱える新潟県の花角英世知事も1月24日の会見で家屋の倒壊を踏まえ、「物理的に屋内退避できない」と発言。「現実的な避難」に向けた議論を求めた。
◆国への追従姿勢が目立つ石川県
原発被災を研究テーマとする茨城大の蓮井誠一郎教授(国際政治学)は「道路は寸断し、待機する自宅も放射能を防げるだけの気密性はない。今回の地震で安全な避難が成り立たないことが明らかになる中で、立地自治体が地域で得た知見を基に声を上げることは大切だ」と受け止める。
指針の問題を可視化する自治体の声。国を動かす力にもなり得る。より重みを持つのが石川県の対応だ。志賀町同様、被災した原発立地自治体。注目度は高く、影響力も少なくない。
ただ、谷本正憲前知事時代に起きた2011年の東日本大震災以降、国への追従姿勢が目立ち、後手に回った印象が否めない。
「原発有事対応 鈍い石川『国検証待つ』」。11年6月、北陸中日新聞がそう報じた。他の立地府県が災害対応の見直しを始めたのに、県が「国が福島の事故の全容を把握していない」(谷本知事)などとして庁内の部会を開かない状況を問題視した。
◆空港や港が使えなくなる想定は「極端」と否定
道路をふさいだ倒壊家屋の撤去作業
11年11月には国が防災対策の重点地域を原発の8〜10キロ圏から約30キロ圏に拡大することで合意した。広範な汚染に備えることになった一方、石川県内では能登半島北側にある奥能登の孤立化が懸念された。奥能登の大半は30キロ圏外だが、その内側が通行止めになった場合、陸路が遮断される恐れがあるとされた。
ところが谷本知事は12年2月の会見で、放射能汚染の範囲について「30キロ圏外は危なくない」と自前の解釈を表明。奥能登への物資が途絶えた際の対応は「飛行機、船舶を使い、生活用品を投入すればいい。それだけのインフラを政府が持っている」と唱えた。冬場で天候が荒れ、空港や港が使えなくなるという想定の質問には「極端」として、想定ごと否定していた。
「国任せの甘い見通しだった」。社民県連副代表で内灘町議の清水文雄氏はそう述べる。同町は志賀原発から南に約40キロ。今も余震が起きるたびに原発への不安がよぎる。「道路は寸断、自宅は倒壊、避難所は満杯。今の石川県で原発災害が起きたら避難できない」
◆馳知事も安全対策の働きかけは乏しく
22年の石川県知事選で初当選した馳浩氏も今のところ、原発の安全対策への言及は乏しい。県危機対策課の担当者は「災害対応を優先しており、知事が今後の原発災害や避難のあり方について、国に要請しようという動きにはなっていない」と説明する。
とはいえ先の蓮井氏は「自治体は住民の生命財産を守る窓口」と述べ、代弁者として耳を傾け、国に働きかける重責があると説く。
今は災害対応を優先しても、県が住民から情報を取りまとめ、国や原子力規制委に要望を上げる意思を発信するだけでも「原発への不安を和らげられる」。さらに「大きな犠牲を払って得られた地域の知見を今後の原発防災に生かせるよう、国も自治体も最大限に努めるべきだ」と訴える。
◆デスクメモ
前知事の楽観論は理解に苦しむ。石川県政の担当時もそう感じた。懸念された奥能登の孤立は今回顕在化した。前知事の言うように空路や海路は十分に使えたか。7期28年の長期政権。耳の痛い言葉が届いたか。思考停止の代償は住民に及ぶ。現知事の馳氏はそう捉えて行動すべきだ。(榊)