社会と個人 どう向きあうの

林住期 どのように暮らすのか。日々、自問自答する。

(114)  COVID-19 TK-File (47) 黒木登志夫 2023年5月16日

 

 

 

 

「今後は感染の小さな波(Wavelet)になり、病院が感染者で一杯になることもないだろう。現在の変異ウイルスは XBB.1.5 とXBB.1.16 が主流。病原性は低い。」

黒木登志夫先生の情報発信が、今後不定期となる。
WHOのパンデミック終結宣言、5類移行などを受けての判断とのこと。
コロナ禍の3年間、「新型コロナとどう向き合うのか」の参考にさせていただいた。感謝だ。おかげで、フェイクニュースなどに惑わされなかった。
 知ったのは、「山中伸弥による新型コロナウィルス情報発信」だ。3年前の3月28日に黒木先生の第1報が掲載された。そこから47回 情報発信がなされた。その都度、目を通してきた。下記は一例。

(44)ウィルスとは何か。もう一度。 - 社会と個人 どう向きあうの



山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信

 黒木登志夫先生

 

今の節目での分析と評価が 冒頭の発信。

 

 COVID-19 TK-File (47) を紹介する。


COVID-19 TK-file (46)を 2023 年 2 月 10 日にお届けしてから 3 ヶ月お休みしておりました。Excuse は次の二つです。

① COVID が収束モードに向かいはじめ、論文、情報が減ってきた。
COVID 患者が減ってきたのは事実ですが、それ以上のスピードで世の中は、急速に収束モードに入りました。5 月に入ってから、WHO、CDC が相次いで非常事態宣言を解除し、日本は第二類から第五類に変更しました。私はオミクロン株になったとき、チャーチルの言葉を引用して「終わりの始まり」と書きましたが、この予測は当たりました。
しかし、ウイルスは残りますし、大きな流行はないにしても、感染者は切れることなく続くでしょう。これまでにもました、変異ウイルスのモニターが必要になるのは確かです。

② 実は、9 月刊予定の『死ぬということ』(仮題、中公新書)の原稿が最終段階を迎え、そちらに集中していたのが、一番大きな理由です。死については、これまで深く考えたことのなかった大きなテーマなので、徹底的に調べ、文章にするのにずいぶん時間をとられました。連休後にやっと脱稿したところです。
内容は、一言で言えば、「Evidence based dying 」ということになります。がん、虚血性心疾患のような主たる死亡原因だけではなく、在宅死、老衰死、突然死、孤独死安楽死などについても症例と evidence に基づいて分析しました。さらに、短歌を 150 首以上引用しました。これから、校閲、校正、索引などに 3-4 ヶ月をかけ、9 月下旬に本屋に並ぶ予定です。ご参考までに、目次を以下に示します。
(序章/第 1 章それぞれの死/第 1 章 人はみな老いて死んでいく/第 2 章 日本は最長寿国/第 3 章 長生きするために/第 4 章 半数以上ががんになる/第 5 章 突然死が怖い循環器病/第 6 章 合併症が怖い糖尿病/第 7 章 受け入れざるを得ない認知症/第 8 章 自然な死、老衰死/第 9 章 死ぬとき/第 10 章 在宅死、孤独死安楽死/第 11 章 遺された人と残された物/第 12 章 「ピンピンごろり」のすすめ)

COVID-19 TK-file は、WHO,CDC に合わせて一区切りをつけ、今後は不定期発行とします。
日本のメディアの報道だけでは、世界の状況が分かりません。たとえば、今回多くのページを割いた XBB.1.5、XBB.1.16 変異株もその一つです。このため、今後も、新しい情報をお知らせする必要があるときには、お送りするつもりです。よろしく。

 

目次と概要

A. 日本の感染状況
日本の感染者は第 8 波以降、一日 1 万人、死亡者 10 人のレベルが続いています。致死率は0.11%です。現在、世界で流行している変異株は、オミクロン BA.2 由来の XBB.1.5 とXBB.1.16 です。アメリカはほとんど XBB.1.5 ですが、インドでは、XBB.1.16 が XBB.1.5に取って代わりました。ということは、後者の方が選択性が高いことになります。日本にもXBB.1.16 が入ってきましたので、今後少し感染が増えるかもしれません。しかし、XBB.1.16も入院、死亡率などは低いので、心配する必要はないでしょう。


B. 今後のワクチン接種プログラムについて
押谷仁、鈴木基、西浦清、脇田隆宇の 4 人が連名の論文によると、今後のワクチン接種プログラムは、WHO の方針にしたがい、次のようになります。
 全員接種:秋冬期
 ハイリスク、高齢者接種:春夏、秋冬の 2 回


C. COVID の流行は小さな波になり、病院が患者で一杯になることはないだろう
Nature 誌の記事によると、今後の COVID は次のようになると予想されています。
・COVID は、これまでのような大きな流行ではなく、小さな波(Wavelet)を繰り返すようになるだろう。
・ 病院が一杯になるような流行はない。 その代わり、死亡者の少ない小さな波を繰り返すであろう。


D. WHO Tedros 事務局長の宣言
5 月初めに WHO Tedros 事務局長、CDC は、相次いで、非常事態宣言の解除を発表しました。WHO の発表の要点は次のようなものである。
・COVID をほかの感染症と同じように管理できるようになった。
・しかし、COVID の脅威がなくなったわけではないし、これまでに構築したシステムを解体したり、COVID は心配する必要がないというメッセージを出すべきではない。
・WHO は、これまでに 700 万人近い死者を把握しているが、実際はその 3 倍であろう。


E. 考察
現在の情報から考えると、小さな波を繰り返す楽観的なシナリオと大きな波のあとに収まっていくシナリオが考えられる。
最初のシナリオを示唆するデータは、現在の XBB.1.5 の病原性が弱いこと、ワクチンと感染による自然免疫獲得の可能性がある。

二番目の可能性は、日本の感染の波は米英と異なり、減衰波動になっていないこと、実効再生産数がまだ 0.9 程度であること、国民がコロナは終わったと考え油断をすることなどがある。このため、ある程度の波が第9波として襲ってくる可能性は否定できない。しかし、そのあとは減衰波動のような波を示すのではなかろうか。


F. 日本の COVID 研究
Science 誌は、日本のワクチン開発プログラムを紹介する記事を載せたが、その内容は、日本の研究に対する批判です。科学技術振興機構JST)は、COVID 研究の書誌学的研究をまとめました。その結果でも日本の論文数は、この 3 年間で世界 16 位、14 位、12 位にとどまっています。特に重要な Hot Paper では 3 年間合計で 1 位です。なぜ、こんなに低いのでしょうか。

G. 3 年間のコロナ対策の検証
この機会に先延ばしにしてきたこの 3 年間のコロナ対策(政治、行政、予算、医療訂正、公衆衛生)を総括をし、どこがよかったか、どこに問題があったかを検証すべきだと思います。
福島原発事故調査のように、政府、民間の二つの視点からの検証が必要でしょう。

 

H. コロナ秀歌、秀句、川柳
コロナに関する朝日歌壇、句壇、川柳欄からご紹介しておりましたが、しばらく前から減少し、今回 10 週間分で短歌は 15 首を数えるのみとなりました.今回をもって最後とします。
これまで、ご協力頂いた宍戸紀子さんに感謝します。


情報提供協力者
細井純一(前資生堂研究所研究員) :Nature 誌探索
「COVID-19 TK-File」は、『山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信(「山中伸弥コロナ」で検索)』に転載されております。その他、「21 世紀構想研究会」、「医学開成会」のホームページでも読めます。
COVID-19 TK-File の転送は自由です。


季節外れの富士山冠雪既にほとんど雪が溶けていた富士山が、今朝は真っ白でした。2日ほど前に雪が降ったようです。暖かくなったため、PL フィルターを使ってもぼやけた写真です。


90km 離れた自宅ベランダから。

 

 

 

全文は以下の通り。

 

A. 日本の感染状況

第 1 波から第 8 までの感染者数(人口 100 万人あたり)の推移を図 1 に示した。第 8 波が終わってから、感染者数は 100 以下と低くなっている。2023/5/8 現在の感染者数は 84である。
しかし、この数は、イタリー(55)、USA(36), UK(23),ドイツ(12)、インド (5)と比べるとまだかなり高い。韓国は様々な制約を緩和したが、日本よりもさらに高く、致死率は 259,日本の 3 倍である。
現在の日本の人口は1億 2500 万人。日本全体では、毎日 1 万 500 人の感染者が出ることになる。ここで、COVID 対策を緩和するということは、このくらいの感染者を許容することになる。

図 2 に見るように、致死率はオミクロンになってからずっと下がっている(死亡者の絶対数が多いのは感染者が多いため)。
5/10 現在の致死率は 0.11%である。これを全国に直すと毎日 11 人程度の死亡者が出ることになる。ほぼインフルエンザ並の致死率である。
この段階で、COVID 対策を大幅に緩和したのは、1 日 1 万人感染、10 人死亡を容認したことになる。このレベルが、これからも続くのであればよいのだが。


図 1
第 1 波から第 8 までの感染者数。5/8 現在の感染者数は人口 100 万人あたり 84.これは日本全体では、毎日 1 万人の感染者が出ることになる。




図 2
第 1 波から第 8 波までの致死率(感染者中の死亡者数の%)。5/10現在、0.11%である。日本全体では、1 日に 10人の死者が出ることになる。



変異ウイルスは XBB が主流になった

図 3 はオミクロン(B.1.1.529)以後のコロナウイルスの系統図である(1)。オミクロンから BA.2,BA.4, BA.5 が流行したが、図 3 に模式的に示したように、そのなかで BA.2 ウイルス間で組み換えが起こり、XBB 株が生き残った。現在の主流株は、XBB.1.5 とその子にあたる XBB.1.5.1 と XBB.1.16 の 3 株である。(図 3 の赤丸)。


図 3 現在の主流は XBB(1)。オミクロン→BA.2→XBB と進化し、さらに XBB.1.5、XBB.1.5.1、XBB.1.16 となった。



変異ウイルスの情報は、イギリスの UK Health Security Agency が、定期的に出している「SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technicalbriefing 」に詳しい.
その 2023/4/21(Report 52)によると、日本を含む 9 カ国の分布は図 4 のようになっている(2)。カナダ、アメリカ、オーストラリアなどでは XBB.1.5 が大部分を占めている。CDC によると、アメリカで 5/6 現在、67%が XBB.1.5 に置き換わっている(図 4,5)。インドは急速に XBB.1.5 から XBB.1.16 におきかわった。 日本でも 4月にはいってから、XB.1.16 が検出されている。


図 4
9 カ国の 4/14 までのゲノム分析結果(2)。インド、ブルネイシンガポール、日本には XBB.1.16(紫色)が目立つ。ほかはほとんどが XBB.1.5(黄色).



図 5 アメリカでは XBB.1.5 が67%を占めている(1)。



日本にも 3 月に XBB.1.16 が入ってきていると聞くと、心配になるが、WHO によれば、XBB.1.16 は、感染力は少し強いものの、重症化リスクはオミクロン以前のウイルスと比べるとはるかに低いと言う(3)。現在、日本で少しずつ感染者が増えているのは、あるいはXBB1.16 に置き換わりつつあるのかもしれない。しかし、そんなに心配することはないであろう。
ただ、最近の変異株は、高齢者に多く感染しているという報告がイギリスから発表されているので、(私のような)高齢者はマスクをつけて気をつけている方がよいであろう(図 6)(1)。


図 6
イギリスで 3/21 から 4/17 までの 4 週間のウイルス分離年齢分布。高齢者が多い。



日本のゲノム解析発表はお粗末すぎる

図 7 は、最新の政府のアドバイザリーボード(4/19 開催、第 121 回会議)に発表された変異ウイルスゲノム情報である(4)。



以前から指摘しているのだが、次のような問題がある。
・ 遅い。2 ヶ月前の解析結果を今頃発表。本報告で報告した XBB.1.16 は 1 例のみ。このため、イギリスの報告書を見るほかなかった)
・ どこにあるか分からない(>500 ページの資料の中に隠れている)
・ 図のまとめ方が下手。
・ 説明がない。

イギリスの詳細なレポート(図 3,4,6)、CDC(図 5)の発表などと比べてほしい。ゲノム分析は国立感染研が中心に(独占的に)に行い、GISAID に報告しているので、イギリスが分析をして、図 4 のように発表しているのだが、肝心の厚労省は、きちんと国民に説明する気がない。この 3 年間、全く改善されなかった。


B.今後のワクチン接種プログラムについて

第 116 回アドバイザリーには、押谷仁、鈴木基、西浦清、脇田隆宇の 4 人が連名で
新型コロナウイルス感染症のこれまでの疫学と今後想定される伝播動態」を発表している(4)。
その中で、今後のワクチン接種プログラムは、WHO の戦略諮問委員会にしたがい、次のようになると記載している。
 全員接種:秋冬期
 ハイリスク、高齢者接種:春夏、秋冬の 2 回 (すでに春夏の案内は高齢者に届いている)
以下は、4 人の論文のまとめである。
(この論文も(4)の一番最後に隠れているので、見つけるのが大変)


まとめ
5月8日以降5類感染症と位置付けられるとこれまで行われてきたようなリアルタイムのモニタリングは困難になる。しかし、COVID-19 の流行は継続し、死亡者も発生し続ける可能性が高い。死亡リスクの高い高齢者や基礎疾患を持つ人たちに対する対策は5月 8日 以降も継続する必要がある。2023 年 3 月 30 日に WHO の予防接種に関する戦略諮問委員 会(SAGE)は高齢者および基礎疾患を有する高リスク者について、6-12 ヶ月の間隔を置いての追加接種を推奨するとした。我が国では、2023 年度の接種として、2023 年秋冬に全ての方を対象とした接種を実施することとしており、また、高齢者等の重症化リスクの高い 方等については、春夏においても1回追加して接種を行うこととしている。日本の人口は世界的に見ても特に高齢化率が高く、この集団に対する適切な追加免疫の実施が求められる。 また、高齢者の介護及び医療の現場における持続可能な感染対策の実施と、適切な医療への アクセス確保が求められる。ウイルスゲノムのモニタリングと抗体保有率の調査を含めた モニタリングを継続することも重要である。

(1)CDC COVID Data Tracker: Summary of Variant Surveillance
(2)SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: technical
briefing 52 (publishing.service.gov.uk)
(3)14042023XBB.1 (who.int)
(4)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等(第 116 回以降)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 

C. COVID の流行は小さな波になり、病院が患者一杯になることはないだろう



Nature 誌は 5 月 4 日号で、上記のような記事を掲載した(5)。
・COVID は、これまでのようなスパイクといえるような大きな流行ではなく、小さな波(Wavelet)を繰り返すようになるだろう。
・病院が一杯になるような流行はない。
・ その代わり、死亡者の少ない小さな波を繰り返すであろう。
・どんな流行になるかは国によって異なるであろう。
・ インフルエンザのような季節的な流行になることもないだろう。
・インドは昨年の 12 月から 4 月まで XBB.1.16 の流行があったが、インドからの論文によると、これまでのオミクロン株と同じように、入院も死者も少なかった。

(5)Nature 617,229-230 (2023) 
doi: https://doi.org/10.1038/d41586-023-01437-8

 

D.WHO Tedros 事務局長の宣言

5 月初めに WHO Tedros 事務局長は、
Public Health Emergency of International Concern
(PHEIC、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)宣言の撤退を表明した。この撤退について、Science 誌は次のような記事を掲載した(6)。
・COVID はどこの国でもこの 1 年間下降線をたどっており、Pandemic 以前の生活に戻すことができるようになった。
・COVID をほかの感染症と同じように管理できるようになった。
・しかし、COVID の脅威がなくなったわけではないし、これまでに構築したシステムを解体したり、COVID は心配する必要がないというメッセージを出すべきではない。
・WHO は、これまでに 700 万人近い死者を把握しているが、実際はその 3 倍であろう。

同時に、CDC は、アメリカの公衆衛生緊急事態(PHE)が 5/11 で終了するのを発表した。
CDC のワレンスキー所長も退任した。

(6)''It’s still killing and it’s still changing.' Ending COVID-19 states of emergency sparks debate | Science | AAAS

 

E. 第9波についての考察

以上の情報に基づいて、第9波がどのようになるかを考察してみましょう。

・第 9 波は、あるとしても小さな波となり、収束に向かう可能性。
① 変異株
現在流行している XBB.1.5 と XBB.1.16 はいずれも感染力も病原性も低い。より感染性の高い XBB.1.16 が日本に入ってきているので、第9波はあるとしてもこれまでよりは低くなると思われる。感染者1万、死亡10人の現在のレベルであれば、日常生活を変えなくとも耐えられるであろう。
② ワクチン、自然免疫
第9波は、図1のグラフよりも何倍か高かった可能性がある。とすると、感染拡大による自然免疫ができているのかもしれない。ただし、オミクロン亜株の基礎再生産数が発表されていないので、自然免疫に必要な免疫保持者の計算ができないが、ワクチンを含めると、相当数の人が免疫をもっている可能性がある。それを考慮すると、第9波は、Wavelet になってもおかしくない。


・第9波は大きな波で、それ以降小さな波になる可能性。
① 減衰波動
イギリス、アメリカの感染者数がオミクロン以来減衰曲線になっている。しかし、図 8 のように、日本の感染者数は、第 9 波まで右肩上がりに上昇してきた。今後減衰していくとしても、第 9 波がある程度の高さの波になるであろう。

 

図8
イギリスと日本の感染波の比較。
イギリス(赤)はオミクロンに入ってから低くなり、減衰波動になっているが、日本は第 9 波に到るまで、一貫して増えている。

② 有効再生産数
現在の有効再生産数は、Our world in data によると、日本は 0.92、イギリスは0.30 である。この数字から見ると、第 9 波が来る可能性は否定できない。

③ 油断
WHO,CDC,第5類などにより、COVID はもう終わったと安心しすぎると、第 9 波は大きい波になるかもしれない。

 

F.日本の COVID 研究

「日本は、COVID によって明らかにされたワクチンの R&D の弱さを克服すべく動き出した Japan moves to bolster vaccine R&D after COVID-19 exposed startling weakness」と言う論文が 2 月 6 日の Science 誌に発表された(7)。出遅れている日本のワクチン研究を支援するために遅ればせながらはじまった AMED の SCARDA プログラムの紹介記事である。
政府は 1504 億円の研究費基金と 515 億円の研究拠点形成費により、将来のパンデミックを見据えてワクチン研究を 5 年間にわたり支援しようとしている。
その紹介記事であるが、内容は日本の研究に対する批判と警告になっている。
・日本の感染症研究費は過去 15-20 年の間にどんどん減少している(東大医科研河岡教授)
パンデミック前の日本の研究費はアメリカの 2%程度、英国、ドイツ、中国にも及ばない。
・2010 年代、東大医科研石井健教授の MERS mRNA ワクチンの安全性研究に研究資金を出さないため、最初のmRNA ワクチン研究が中断した。
・日本の感染症研究が Critical mass の研究者を確保できるかどうか、若い研究者が入ってくるかどうか。
・2021 年に発表された COVID 研究のベスト 300 論文中に日本の研究者はわずか 2 人しか入っていない。日本よりも研究施設がはるかに少ないイタリアと香港からは 18 人と14 人の研究者が入っている。
・日本には強力なワクチン産業がない。
基金は 5 年分である。5 年後には優先順位が変わっているかもしれない。

お金をつぎ込むのは必要だし、SCARDA がワクチン開発を重要視していることはありがたいが、指摘されたような基本的な問題が多すぎる。

サイエンス誌の記事に載っていた写真。
パチンコ屋でワクチン注射をしたなんて信じられないのだが。



(7)Japan moves to bolster vaccine R&D after COVID-19 exposed startling weakness | Science | AAAS

JST の分析

COVID 研究は、なんの前触れなしに世界中の研究者が 2020 年から一斉にスタートした研究レースであった。結局、普段からの準備と集中力、研究資料の収集能力などの総合力が勝負を分けた。
JST(日本科学技術振興機構)は、COVID 研究の書誌学的研究の第 2 報を発表した(8)。それによると、日本の研究は質量ともに低い。
質では、Hot Paper とよばれる引用トップ 1%論文は、日本は 18 位である。(図 9 左端)。
量では、コロナ関係論文数を見ると、2020 年は 16 位、2021 年 14 位、2022 年と 12 位とわずかずつ上昇しているに過ぎない。
日本は、COVID 患者数が少ないという点で不利な点があったが、3 年経てば、それなりに集積しているはずだ。何が問題か。最大の問題は、日本の研究レベルが低下していることである。COVID に限っていえば、感染症研究者が少なく、それも臨床研究に偏っていた上、そのレベルも低かった。厚労省が、データを独り占めするような官庁の縦割りのため、貴重なデータを研究者が入手できなかったことも大きい。


図 9
COVID 研究の国際ランキング。日本(赤丸)は、いずれでも 10 位以下。良質とも非常に低いことが分かる。



(8)JST シグマエビデンス(ホットペーパーから見た新型コロナ研究)May 2023

 

G. 次に必要なのは 3 年間のコロナ対策の検証

一番大事なのは、この機会に、この3年間の COVID 対策を検証することである。すべての国民が関わった大事件であるにかかわらず、莫大な税金を投入したのにかかわらず、政府は検証を全く行わないできた。民間組織「アジア・パシフィック・イニシアティブ」(船橋洋一代表)による「新型コロナ対応民間臨時調査会」報告書だけである(9)。この調査会は、福島原発事故調査も行っている。その経験をもとに、多くの人に聞き取り調査を行い、これまで知られていないことを次々に明らかにした。私は、中公新書『新型コロナの科学』の校正の段階でこの本に目を通し、原稿を大幅に書き換えざるを得なかった。
イギリスでは、下院が検証し、検証結果を発表している(10)。140 ページを超える報告書は、非常に厳しい言葉で始まっている。
The UK’s pandemic planning was too narrowly and inflexibly based on a flumodel which failed to learn the lessons from SARS, MERS and Ebola. The result was that whilst our pandemic planning had been globally acclaimed,4 it performed less well
than other countries when it was needed most
英国のパンデミック計画は、SARS、MERS、エボラ出血熱からの教訓を学ぶことができなかったインフルエンザモデルに基づいたあまりにも狭義かつ柔軟性に欠けたものでした。その結果、我が国のパンデミック計画は世界的に高く評価されていましたが、最も必要とされている時期には他国に比べてあまりうまく機能しませんでした。

 

図 10
「新型コロナ対応民間臨時調査会」報告書とイギリス下院の検証報告書



COVID-19 を第 2 類から第 5 類に移動した今こそ、日本の対策を政治、行政、予算執行、医療体制、公衆衛生などの広い立場から検証するときである。福島原発事故調査の時と同じように、国会と民間の二つの組織が検証するのが望ましい。

この 3 年間の検証が、次のパンデミックに備える上で最も重要な対策資料となるはずである。

 

(9)「新型コロナ対応民間臨時調査会」報告書 2020/10/25
( 10 ) Coronavirus: lessons learned to date report: government response - GOV.UK (www.gov.uk)

 

G.コロナ秀歌、秀句、川柳

コロナの短歌、俳句、川柳は激減し、23/2/26 から 5/13 までの 10 週間で、短歌 14
首、俳句 4 句、川柳 15 句であった。

 

 

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