社会と個人 どう向きあうの

林住期 どのように暮らすのか。日々、自問自答する。

(44)ウィルスとは何か。もう一度。

 

ウィルスとは何か。もう一度。
新型コロナウイルスパンデミックとして猛威を振るいだした頃に公表された「コロナウイルス arXiv*(9)2020 年 5⽉2⽇ ⿊⽊登志夫」。
当時、ウィルスとは何か、教えてくれた。冷静にコロナをとらえ、恐れることも教えてくれた。

偶然か、本日(19日)ニュージーランド(NZ)のアーダーン首相は、記者会見を開き「2月7日までに辞任する」「議員の再選も目指さない」と表明した。パンデミックが始まった時、素早い、明確なメッセージで感染拡大阻止を訴えた。ドイツの当時の首相アンゲラ・メルケル氏とともに注目を浴びた。政治リーダーたるべきものこうでないといけないと共感を覚えた。
Be kind. Be strong. Stay home. Save lives. We will get through this.
時代は変わる。つくづく思う。

さて、冒頭の論文を引用する。

 

 

コロナウイルス arXiv*(9)2020 年 5⽉2⽇ ⿊⽊登志夫

https://shard.toriaez.jp/q1541/082.pdf

 

今回は、前回(「コロナウイルス arXiv*(8)2020 年 4 ⽉24 ⽇」のこと )の肺炎に続いて、「基本のキ」として、ウイルスについて書きました。

コロナウイルス arXiv*(8)https://shard.toriaez.jp/q1541/042.pdf


コロナウイルスのゲノムデータが次々に蓄積されつつあります。4 ⽉ 27 ⽇(2020年)に国⽴感染症研究所から発表された論⽂により国内の感染の実態が分かってきました。この困難な時代、国をリードする⼈の資質は重要です。対照的な⼤統領と⾸相の⾔葉を紹介します。
短歌、俳句の投稿欄には、コロナをテーマにした作品が⽬⽴って多くなりました。特に、今週は志村けん⽒の偲ぶ作品がたくさん寄せられています。

*“arXiv”(アーカイブ)は、未発表科学論⽂の投稿ネットサイトの⼀般名です。
コロナウイルス arXiv は、⼭中伸弥先⽣の「新型コロナウイルス情報発信」サイトhttps://www.covid19-yamanaka.com/index.html)に掲載されております。バックナンバーも含めて、転送は⾃由です。

 

⽬次

  • 1. 「基本のキ」ウイルスとは何か
  • 2. ウイルスゲノムの変異から流⾏の⾜跡を探る
  • 3. トランプ⼤統領推薦の治療法
  • 4. Stay safely, be strong but be kind
  • 5. コロナ秀歌・秀句

情報提供者
  宇川彰(学振) ゲノム
  吉⽥光昭(元東⼤医科研所⻑) ゲノム
  前⽥浩(熊本⼤学名誉教授) ゲノム
  杉⼭弘(京都⼤学医学部) ゲノム

 

 

1. 「基本のキ」ウイルスとは何か

濾過性病原体
前回の肺炎に次いで、コロナウイルスを理解するための「基本のキ」を、簡単に紹介します。
先ず、ウイルスという⾔葉は⽇本語です。何故、このようなカタカナが⽇本で普及してしまったのか。その原因は、⽇本ウイルス学会です。1953 年(昭和 28 年)に、⽇本ウイルス学会が創⽴されたとき、ビールス(ドイツ語)でもバイラス(英語)でもなく、ウイルスという名前で学会を作ったのが始まりです。それまでは、⽇本では病毒と書いていました。今でも中国は、ウイルスは「病毒」です。新型コロナウイルスの中国名は「新型冠状病毒」です(この名前はわれわれに分かりやすい)。ウイルスが発⾒される前は、素焼きの濾過器で濾過してしまうくらい⼩さい病原体と⾔う意味で「濾過性病原体」と呼ばれていました。
ウイルスは、1000 万分の 1 ミリ程度の⼩さな病原体ですので、普通の顕微鏡では⾒えず、電⼦顕微鏡が必要です。しかし、最も本質的な特徴は、⾃らの持つ遺伝情報(DNA/RNA)をタンパクに翻訳することが出来ないことです。したがって、細胞に寄⽣しないと⾃分を増やすことが出来ません。このため、ウイルスを増やそうとすると、培養している⽣きた細胞を増殖の場として⽤意しなければなりません。⼀⽅、細菌は遺伝⼦発現に必要なマシナリーを持っていますので、⾃ら増えることが出来ます。栄養を含む寒天培地の上に塗布すると、倍々で増えてコロニーを作ります。

DNA ウイルスと RNA ウイルス
ウイルスは、そのゲノムによって DNA ウイルスと RNA ウイルスに分かれます(表 1)。RNAウイルスは、さらにレトロウイルス、⼀本鎖(+)、⼀本鎖(-)、⼆本鎖に分類されます。レトロウイルスは、⾃らの逆転写酵素によって RNA を DNA に変え、細胞の核のなかに取り込まれ、あたかも細胞のゲノムのように振る舞うという⾼度な作戦で、病気を起こします。
因みに、レトロウイルスのゲノムを最初に解読したのは、東⼤医科研の同僚、吉⽥光昭先⽣(当時癌研)です。レトロウイルスを除く RNA ウイルスは、RNA から RNA が作られます。

表 1:ウイルスの分類と主なヒトの病気。コロナウイルスは、プラス鎖⼀本鎖RNA ウイルスに分類される。ぷらす RNAメッセンジャーRNA として、アミノ酸のコードを持つ。

 

ウイルスが細胞に⼊り込むためには、迎え⼊れるためのレセプターが必要です。細胞がわざわざウイルスのレセプターを持っているはずがなく、たまたま細胞膜にある分⼦がウイルスとマッチングすれば、レセプターとなるのです。コロナウイルスの場合は、ACEII という酵素という⾎圧調整分⼦がコロナウイルスのレセプターとなったため、われわれはコロナに感染することになってしまいました。レトロウイルス以外の RNA ウイルスは、DNA を経ないで増殖しますので、細胞核のなかに⼊る必要はなく、細胞質に居続け、ウイルス⾃⾝が持つ RNA 合成酵素RNA を複製します。ウイルス粒⼦の構造を作るタンパク、たとえばコロナウイルスの棘(Spike)のタンパクは、ウイルスゲノムの情報を基に細胞に作らせ、ウイルスの形になり、細胞からまるで芽が経てくるかのように外に出て(Budding)。他の細胞に感染します。この⽅法によって、ウイルスは爆発的に増えます。

 


図 1:細胞、細菌、ウイルスの増殖様式。
細胞と細菌は倍々で増えるのに対し、ウイルスは細胞に寄⽣し、ウイルスを複製し、細胞膜から、芽がでるようにして爆発的に増える。

 

ゲノムの変異が特に RNA ウイルスで起こりやすいのは、⼀本鎖のため、間違いを補正するべき相補的な RNA がないためです。次に紹介する国⽴感染症研究センターの報告によると、コロナウイルスの場合は、1 年間で 29.900 塩基のゲノムあたり、25.6 塩基(0.09%)に変異が起こると⾔うことです。2019 年末以来 4 ヶ⽉の間に、少なくとも 9 カ所の変異がランダムに起こっていることになります。そのような変異を追跡することにより、ウイルスがどのように伝わったが分かります。


2.COVID-19 変異の追跡からわかったこと。第⼀波の阻⽌成功と第⼆波の失敗

       (※ momodaihumiaki の注 第1波 2020年4月11日をピークとする 
                     第2波 2020年8月 7日をピークとする)

4⽉16⽇現在世界各国において合計 4511 名の患者から分離されたコロナウイルスゲノムが GISAID(次項)というサイトに登録されています。4 ⽉ 17 ⽇、国⽴感染症研究所は、GISAID に⽇本⼈感染者 562 名分ゲノム情報を加えた合計 5073 件の分析結果を発表しました*。その結果、我が国におけるコロナ感染がどのように広がっていったか。対策上の問題はどこにあったかなど、⾮常に重要な情報が得られました。
https://www.niid.go.jp/niid/images/research_info/genome-2020_SARS-CoVMolecularEpidemiology.pdf

 図2



図 2 は、感染研から発表された世界と⽇本のコロナウイルスゲノムのネットワークです。
武漢株を発端に変異を蓄積しながら進化するウイルスの「親⼦関係」をネットワークとして図⽰化したものです。各点(node)の⼤きさは分析したサンプル数、⾊は地域を⽰しています(図 2 右上囲み)。主な地域は、⽇本(⾚丸)、中国(⻘⾊)、ヨーロッパ(空⾊)、アメリカ(⻩⾊)、ダイヤモンド・プリンス号(DP 号)(桃⾊)です。さらに、時間と共に感染が各地域に広がっていく様⼦が動画で⾒ることが出来ます**。
** https://gph.niid.go.jp/covid19/haplotype_networks

⾮常に貴重な情報がこの分⼦疫学研究から得られました。しかも、対策上の問題点も明解に⽰されています。
① 2019 年 12 ⽉ 26 ⽇、武漢患者の新型コロナウイルスのゲノムが、はじめて同定された(中央下「武漢」⻘⾊)

② 1 ⽉初旬から中旬にかけて、武漢から⼊ったウイルス株を起点として、⽇本各地に初期のクラスターが複数発⽣した。しかし、3 ⽉に⼊ると消滅していった(図中央及び中央下、⾚⾊)。

③ 2 ⽉ 5 ⽇から横浜港に停泊し DP 号のウイルスは、武漢株に 1 塩基変異が⼊った株であったが、この株も終息した(図中央下、桃⾊)。

④ 2 ⽉下旬になるとヨーロッパに感染が広がり、急速に拡⼤する (図左、⻘⾊)。

⑤ 2 ⽉下旬にヨーロッパのコロナウイルスが⽇本に⼊る。この株は 3 ⽉下旬から 4 ⽉にかけて急速に広がり、現在に⾄る (図右上部、⾚⾊)

⑥ 2 ⽉下旬アメリカ⻄海岸と東海岸に感染が広がる。東海岸と⻄海岸でウイルス変異株がかなり離れている(それぞれ図上部と下部、⻩⾊)。


以上の結果をもう⼀度感染防⽌対策の観点からまとめてみます。

  •  ⽇本は武漢からの帰国者、旅⾏者からの感染と DP 号の感染拡⼤阻⽌に成功した。これは、初期のクラスター対策(DP 号を含め)の成功によるところが⼤きかった。このまま進めば、今⽇の感染はなかったであろう。
  •  しかし、春休みに欧⽶に出ていた学⽣など旅⾏者が帰国して感染を広げた。イタリア北部(+韓国)からの⼊国規制は 3 ⽉ 2 ⽇、全世界からの⼊国規制は 3 ⽉ 19 ⽇であった。
    外務省が出国注意情報を出したのは 3 ⽉ 16 ⽇。⽇本は対ヨーロッパの⽔際作戦で完全に遅れをとってしまった。
  •  3 ⽉ 20 ⽇から 22 ⽇にかけての連休は、桜の⾒頃と重なり、街は⼈であふれた。政府、⾏政、市⺠の危機意識が不⼗分であったこともあり、感染は⼀気に広がった。
  •  今から思えば、2 ⽉下旬ヨーロッパ帰国者からの感染が⾒つかったとき、厳しい対策をとらなかったことが今⽇の流⾏を招いたといえます。

GISAID の分析
GISAID (Global Initiative on Sharing All Influenza Data )は、トリインフルエンザが猛威をふるった2006 年に設⽴されたインフルエンザウイルスの情報データベースです。
COVID-19についてもゲノム情報を収集し登録しています。国⽴感染研の分析もこのデータベースを基にしています。
https://nextstrain.org/ncov/global

 

図3:GISAIDによる
COVID-19の世界拡散。アジア地域は⻘⾊、アメリカは⾚⾊、ヨーロッパは緑⾊で⽰されたウイルス株が主となっている。
拡散の時間経過は動画で⾒ることが出来る。国⽴感染研の分析(図2)と⽐べると複雑で分かりにくい。また、⽇本については詳細が分からない。

 

コウモリのコロナウイルスからの変異ルート
ドイツとイギリスのグループは、世界各国のウイルスゲノム情報、160 を調べた結果をアメリカ科学アカデミーに発表しています(2020 年 3 ⽉)。ヒト COVID-19 は、コウモリのコロナウイルス(右下)と 96.2%が⼀致していますが、図 4 に⾒るように、距離はかなり離れています。コウモリのウイルスに由来する A タイプが最初中国で流⾏しました。東アジアで最も多いのは、A ウイルスのゲノムに 2 カ所(8782 番と 28144 番)の変異が⼊ったB タイプです。C タイプは、B タイプに変異 (26144 番)に加わったグループです。C タイプは、イタリー、フランス、イギリス、さらにカリフォルニアに多いタイプです。
https://www.pnas.org/content/pnas/early/2020/04/07/2004999117.full.pdf

図 4:コウモリのコロナウイルスに由来するCOVID-19 は 、 A,B,Cの 3 タイプに分類され、ある程度の地域特異性を持って分布している。

S 型と L 型
3 ⽉初め頃、COVID-19 に S 型と L 型があるという報告が中国からありました。S 型はCOVID-19 のいわば原型、軽い⾵邪程度の症状です。L 型は武漢で猛威を振るった変異型です。28144 番⽬の塩基の変異によりアミノ酸のセリンがロイシンに変わったのが L 型になります。図 4 と照らし合わせると、S 型が A タイプ, L 型は B タイプにそうとうするとおもわれます。京都⼤学の発表(上久保、⾼橋)によると、最初に⽇本に⼊ってきたのは S 型ですが、L 型は 1 ⽉ 23 ⽇に武漢が閉鎖されたため、⽇本に⼊ってこなかったとのことです。
そのあと、ヨーロッパ型が⽇本に⼊り、今⽇の流⾏になりました。図 2 で初期の中国由来コロナが消滅したのは、S 型(=A タイプ)だったと考えられます。
いずれにしても、RNA 型のウイルスは変異しやすいので、今後、より感染⼒、病原性の強い変異が出てこないか⼼配です。

次は対照的な⼤統領と⾸相の演説です。

 

3. Trump ⼤統領推薦の治療法

もう有名な話しですが、4 ⽉ 24 ⽇トランプ⼤統領は、体内に⼊ったコロナウイルスを殺すのには、Bleach のような殺菌剤を注射するか、紫外線を浴びれば良いというこれまで誰も考えなかったような提案しました。
https://www.youtube.com/watch?v=ZWEgylVkOSg

I see the disinfectant where it knocks [the virus] out [from a surface] in a minute, oneminute, and is there a way we can do something like that [by] injection inside or almost acleaning, because you see it gets on the lungs and it does a tremendous number,”
“supposing we hit the body with a tremendous, whether it’s ultraviolet or just verypowerful light and I think you said that hasn’t been checked but you’re going to test it.And then I said supposing you brought the light inside the body, which you can do eitherthrough the skin or in some other way.”

 

4.Be kind. Be strong.

NZ の Jacinda Ardern ⾸相は、迅速な対応、国⺠への⼒強い呼びかけによって、コロナ対策に成功しました。NZ は、観光国であるにかかわらず、徹底した⼊国禁⽌政策をいち早くとり、感染の抑えこみしました。彼⼥の明確なメッセージは次の⾔葉に表されています。
Be kind. Be strong. Stay home. Save lives. We will get through this.

 

5.コロナ秀歌・秀句

4 ⽉ 26 ⽇の朝⽇歌壇の 40%(16/40)、朝⽇句壇の 17.5%(7/40)がコロナをテーマにした作品でした。特に、志村けん⽒の逝去を悼む作品が多く⾒られました。顔の⾒える⼈がコロナで亡くなり、たくさんの⽅がショックを受けたことが分かります。



 

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