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敵基地攻撃能力に沖縄・石垣市議会が「容認できない」意見書可決 台湾に近い有事の際の最前線で何が起きたのか…

 

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2022年12月23日 11時00分

 安保関連3文書に盛り込まれた敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を巡り、意外な地域から異論が上がった。自公系市長が舵かじを取る沖縄県石垣市だ。注視すべきは市議会の動き。市内で開設予定の陸上自衛隊駐屯地に「反撃能力をもつミサイル配備を容認できない」と訴える意見書を可決したのだ。有事が懸念される台湾に近く、防衛の最前線になりうる石垣市。今回の動きをどう捉えるべきか。(西田直晃、宮畑譲)


◆近隣諸外国を必要以上に刺激する

 

沖縄県石垣市で建設中の陸上自衛隊駐屯地=8月 (共同)

 

 「反撃能力の保有は、他国を攻撃する能力を持つことに他ならない。にもかかわらず、16日に閣議決定された安保関連3文書に書き込まれた。軍拡に反対する地元の思いを発信すべきだと考え、腰を上げた」
 そう語ったのは、石垣市議会の野党会派「ゆがふ」の花谷史郎市議。くだんの意見書の提案者だ。
 陸上自衛隊のミサイル基地の配備計画を巡り、市民の賛否が割れてきた石垣市。今年2月の市長選では、自公政権の支援を受ける容認派の現職、中山義隆氏が4選を果たし、玉城デニー知事に近い市議らが推す新人を退けていた。

 それから10カ月。自公政権閣議決定した反撃能力の保有を巡り、市議会で目を見張る動きに出た。今月19日、異を唱える意見書を可決したのだ。
 この意見書では「(反撃能力の保有に関する)法整備が進むことで、他国の領土を直接攻撃することが可能となり、近隣諸外国を必要以上に刺激する」「有識者からも慎重な議論を求める声があがり、憲法違反の可能性も指摘されている」と記されている。
 花谷市議は「周辺国の受け取り方によっては、攻撃の意思があると見なされる。尖閣諸島の防衛を掲げていたこれまでと異なり、直接的な戦争を引き起こす恐れがある」と懸念する。
 意見書の採決では、議長を除く市議21人のうち、自公系会派の9人が反対(1人は欠席)した一方、野党系の8人、中立の3人の計11人が賛成に回った。複数の市議によると、当初は全会一致を目指して文言を調整していたが、政府方針への反対を示す表現で自公系会派と折り合えなかったという。


◆抑止力と言われても、反撃能力であれば話が違う

 

 

 戦禍を避けたい願いが込められたこの意見書。過半数の議員が賛成に回ったのはなぜなのか。
 同市がある石垣島は、有事が懸念される台湾が近く、周辺海域を中国海警局の船が連日のように巡航する。昨年は過去最長となる157日間連続で現れた。
 花谷市議によると、今年8月、ペロシ米下院議長の台湾訪問を受けた中国のミサイル発射を伴う軍事演習で「戦争のリスクを身近に感じる市民が目立ち始めた」という。
 有事に最前線になりかねない石垣島。そんな中、意見書を支持した議員たちは「反撃能力の保有で近隣国を刺激する」と危ぶむ花谷氏の訴えを重く捉えた。
 野党会派「ゆがふ」の内原英聡市議は「米中の軍拡のチキンレースで、意図しない衝突が戦闘に発展し、住民が巻き込まれることが怖い」と語る。「抑止力と言われても、反撃能力であれば話が違う。うそをつくことは沖縄方言で『ゆくしむにー』だが、これでは『抑止むにー』だ」
 別の野党会派に籍を置く長浜信夫市議も、反撃能力を保有すれば抑止力につながるという考え方に懐疑的だ。「われわれは備えと位置付けても、緊張感を高めるだけだ」と主張する。宮良操市議は「南西諸島が軍事要塞ようさい化するのを見過ごせない。政府の説明を早期に求めたい」と語った。

 

◆「反撃の拠点」は標的の懸念


 石垣市議会で可決された意見書は首相宛てになっているが、岸田政権は反撃能力と称した敵基地攻撃能力の保有を掲げ続ける。防衛関連予算も2027年度には対国内総生産GDP)比で2%へ倍増させる方針で、戦後の安保政策を大転換し、軍拡にひた走る。

 

長射程化する陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」=8月、鹿児島県奄美市陸自奄美駐屯地で (共同)

 

 従前から台湾有事を念頭に南西諸島では自衛隊の配備が進められてきた。石垣市では来年にも陸自の駐屯地が開設される予定で、12式地対艦ミサイル(SSM)の配備が報じられる。
 先の意見書は、この点も神経をとがらせ「危機を呼び込むのではないかと心配の声が尽きない」と記す。これをどう捉えるべきか。
 12式地対艦ミサイルは改良を施し、射程を1000キロ程度に延ばすことが予定されている。具体化すれば、日本から中国沿岸部に届く。そのため、敵基地攻撃能力を担うと想定される。
 敵基地攻撃の拠点となれば、狙われる敵からすれば脅威にほかならない。安全保障問題に詳しいジャーナリストの布施祐仁氏は「先制攻撃を受けるリスクが高い」と指摘する。つまり、標的になる可能性が高まるということだ。


防衛省は住民に「迎撃用であくまで専守防衛のため」と説明


 だからこそ、意見書では「自ら戦争状態を引き起こすような反撃能力を持つ長射程ミサイルを石垣島に配備することを到底容認できない」と指弾される。
 その意見書では「政府の裏切り」も疑われる。石垣市の住民説明会で防衛省は「(配備する兵器は)迎撃用であくまで専守防衛のため」と説明したという。敵基地攻撃能力を備えるとなれば随分と話が違う。
 ただ、沖縄国際大の石原昌家名誉教授(平和学)は「駐屯地がつくられることが決まった時点でこうなる可能性はあった。もう大きな歯車は動き出している。今の段階から止めるのは難しい」と悲観的に見通す。
 敵基地攻撃の拠点化の懸念は、石垣に限った話ではない。長射程化が予定される12式地対艦ミサイルは、石垣島のほかに沖縄県うるま市宮古島市、鹿児島県の奄美大島に配備される見通しになっているからだ。

 


沖縄県玉城デニー知事

 沖縄県の玉城知事は20日、安保3文書に沖縄の自衛隊部隊の増強が明記されたこともあり、「自衛隊の増強はさらなる基地負担増にほかならない。沖縄だけが日米の安全保障を担えばいいという方向性は正しくない」と述べている。


◆南西諸島以外にも配備「リスク高まる」


 先の布施氏は、12式地対艦ミサイルを運用する陸自の部隊が「台湾有事を念頭に『南西シフト』している。まずは南西諸島で配備を進めるということだろう」と指摘する。
 一方で「現代の戦争は『ミサイル戦争』。軍事的な観点で言えば、ミサイルを発射できる基地、場所は分散しておいたほうがよい」と述べる。南西諸島以外も敵基地攻撃能力を備えた拠点とする案が浮上しており「今後は他国のミサイルの標的となるリスクが高まる地域は増える」とみる。
 他国を攻撃射程に入れた軍拡を進めるほど、拠点がある地域の住民はリスクにさらされかねない。本来なら事前に民意をくむなど、丁寧な合意形成が求められるが、政府はそうしない。敵基地攻撃能力の保有は、閣議決定で決まった。石垣市の例をみても、敵基地攻撃能力を持つ部隊配備が地元の合意なしに進む可能性はある。
 流通経済大植村秀樹教授(国際政治学)は「政府はロシアのウクライナ侵攻を受けた国民の不安に乗じ、慌てて進めている。予算ありきで何をどうするかといった議論がない。国民はあおられてはいけない。冷静になり、何がどう必要か、国会などでの議論を求めなくてはいけない。このままでは5年、10年後に大きな禍根を残す」と訴える。


◆デスクメモ
 世間を揺るがす出来事が続いたこの1年だが、忘れてならないのが日本復帰50年の沖縄だ。傷を負った地に苦痛を強いる構図は変わらぬまま。政治家たちは現地を訪れ、じかに悲鳴を聞いているか。この問いに向き合うべきは私たちも。うわべの寄り添いほど空虚なものはない。(榊)